第1回過労死防止学会専門部会「芸能従事者の働き方の改善に向けた研究会」開催の報告

開催概要
日時:2025年3月13日(木)午後2時~4時
場所:衆議院第2議員会館 会議室
主催:過労死防止学会専門部会「芸能従事者の働き方の改善に向けた研究会」/一般社団法人日本芸能従事者協会
出席者:文化庁・厚生労働省・公正取引委員会の各担当官、超党派の国会議員、芸能従事者、遺族、専門家、メディア関係者など48名

芸能従事者の過労死等に関する勉強会によせて
本日の「芸能従事者の過労死等に関する勉強会」ご開催に心より敬意を表します。
国会では2014年の過労死防止対策推進法の制定以降、厚生労働省を中核に各種施策を展開してきたところですが、
残念なことに深刻な過労死事案、ハラスメント事案は後を絶たず、
各業界ごとにさらにきめ細やかな対策の推進が求められています。ま
さに芸能界においても、過酷かつ異常な環境が残っていると指摘があり、
この会合が環境改善に資するものになりますことを心よりお祈り申し上げます。
主催の森崎さんをはじめご参加者の方にとりまして、
充実した勉強会となりますことを、心よりお祈り申し上げます。
令和7年3月13日
超党派過労死防止対策議連
会長代行 衆議院議員 泉 健太
はじめに

2025年2月、過労死防止学会は、専門部会「芸能従事者の働き方の改善に向けた研究会」を設置しました。芸能界の現状と課題を明らかにし、改善策を探るため、初めての勉強会が開催されました。
芸能の世界は、私たちに夢や感動を届けてくれる一方、舞台裏では過酷な労働や不安定な環境に苦しむ人が少なくありません。今回は、過労死防止学会専門部会と日本芸能従事者協会の共同主催により、各省庁の担当者、超党派の国会議員、現場の当事者、遺族、専門家、メディア関係者など、合計48名が衆議院第2議員会館に集まりました。
芸能界をより安全で安心して働ける場にするための第一歩となる、意義深い会合となりました。
写真:遺族へのグリーフケアの重要性を語る吉祥さん。
主な議題と報告内容
1. 芸能業界の現状と課題

芸能従事者の約95%が個人事業主であり、労働基準法などの適用外であることが多い現状が報告されました。会社員のような労務管理や安全衛生対策がほとんど行われていないため、長時間労働や過重労働、ハラスメント、安全衛生の軽視など、多くの問題が指摘されました。
日本芸能従事者協会の調査によると、約6割が「睡眠時間6時間未満」で働いており、毎年約7割が「現場で事故や怪我を経験した」と回答。トイレや更衣室がない経験が60%を超えており、基本的な人権や快適な就業環境が守られていない実態が報告されました。
写真:過労死家族の会の方もご参加いただきました
ハラスメントの被害も深刻で、「パワハラを受けた、または見聞きしたことがある」人は93.2%、「セクハラを受けたことがある」人は73.5%に上ります。
精神的なストレスやうつ・不安傾向が多く、自殺願望があると答えた人も43%もあり、著名人の自殺が相次いでいる現状が共有されました。
写真:「芸術・メディア・芸能従事者のハラスメント実態調査アンケート2022」より

2. 当事者・遺族からの証言
映画、テレビ、舞台などの現場で働く俳優・スタッフ・マネージャーなどからは、長時間労働、未払い残業、契約内容の不透明さ、不当な報酬交渉、適切な急速時間の欠如など、日常的に直面する問題が次々に語られました。子役や若手タレントへの過度なプレッシャーや、家族の立場から見た現場の危険性、精神的な疾患の発症など、当事者や遺族の切実な声が会場に響きました。
「自分の命を守るために現場を辞めた」「事故や自殺が起きても業界全体での再発防止策が徹底されない」「業界をやめても次の職に就くことができない」など、構造的な問題の根深さが浮き彫りになりました。
写真:芸能人のセカンドキャリア推進委員長の松永博史さんと過労死防止学会誌。

3. 政府・業界の取り組み

会場には、文化庁文化経済・国際経済課、厚生労働省過労死等防止対策室、厚生労働省雇用環境・均等局雇用機会均等課 、公正取引委員会フリーランス室及び取引課ら、関係省庁の方々が出席してくださり、それぞれのお取り組みの現状や課題、今後の制度の方向性について詳しい説明がありました。
文化庁からは、文化芸術分野の契約関係構築の必要性や現状、今後の文化行政の方向性について報告がありました。厚生労働省は、過労死防止等白書に記載された調査結果から就業実態の現状と課題を指摘されました。さらに同省からは、施行されたフリーランス法に定められた「ハラスメント防止措置」や育児介護への配慮や募集条項の表示義務などによるフリーランス・個人事業者の就業環境の改善策など、現状と課題について報告されました。公正取引委員会からは、芸能分野における独占禁止法や下請法の運用状況、芸能事務所や放送業およびレコード会社と芸能実演家の俳優や音楽家の契約実態の調査報告書についての解説がありました。
近年、厚生労働省による労災保険の適用拡大、フリーランス・事業者間取引適正化法の施行、フリーランスガイドラインの策定など、改善に向けた動きが始まっています。しかし、現場レベルでは「ウェルビーングの高さはやりがい搾取のされやすさに繋がっている」「違反通報のハードルが高い」「兼業就業者の労働時間が合算されない」「労災や過労死認定の基準が実態と合わない」など、課題が多く残っていると指摘されました。
写真:各省庁の担当官による取り組みの報告
議論のまとめと今後の展望

芸能業界の労働環境は、長時間労働やハラスメント、安全衛生の不備など、深刻な問題を抱えています。
今回の研究会では、現場のリアルな声と、行政・専門家の知見が交わり、「業界全体で抜本的な改革が必要」「個人事業主でも安心して働ける仕組みを」「遺族や被害者の声を政策に反映する」「個人事業者の労災や精神疾患および過労死の認定基準の見直し」「安全経費の確保」など、具体的な課題と課題解決の方向性が共有されました。
今後も、現場の声を大切にしながら、自殺防止と遺族のグリーフケア、労働時間・安全衛生・契約ルールなどの改善策を議論し、国会や行政とも連携しながら取り組みを進めていく予定です。
写真:過労死防止学会の前幹事長・黒田兼一氏による挨拶


今後の予定
次回の専門部会は2025年4月以降に開催予定です。引き続き、芸能従事者の労働環境の抜本的改善を目指し、当事者・遺族・関係者の声を集め、具体的な政策提言や支援策の検討を続けていきます。