熱中症防止対策ガイドライン①基礎編(2026年度)

一般社団法人日本芸能従事者協会

熱中症は適切な対処をおこたると後遺症が残ったり、死亡することもある、おそろしい疾患です。近年の世界的な温暖化や夏が酷暑になるにつれ、ますます危険性を増しています。2025年6月からは、厚生労働省が労働安全衛生規則612条を改正したことで、事業者(現場を管理する人)が、現場で働く(個人事業者を含む)人が熱中症にならないように、予防策を講ずることが義務化されました。

芸術・芸能分野の制作現場でも、熱中症にならないように「危険予知」をして、適切な対策をとることで、安全で働きやすい就業環境を作ることが大切です。

実際に熱中症災害を減らすためには、現場にいる各ポジションの一人一人が、①入念な予防をした上で、②熱中症が発生したら →見つける、→判断する、→対処する、の3段階で対応します。 次にあげるのは、どのような職種でも応用できる基本的な内容です。これらの要点を踏まえて、それぞれにあった熱中症対策を講じるよう、制作に関わるすべての方と協力をして下さい。

① 熱中症の予防

予防のSTEP1《暑くなる前の事前準備》

1【周知】
熱中症の対策と予防に、誰もが気持ちよく取り組めるように、とくに制作やプロデューサーの方が率先して対策を講じ、安全に向けて場の雰囲気作りを心がけてください。スタッフやキャストが現場に入る前に、研修の実施や、ガイドラインの周知をしてください。冬物の衣装はなるべく避けて、厚着を避けましょう。

2【救急医療機関の把握】
熱中症のリスクが大きい日は、救急車も不足します。現場に近い救急医療機関を把握しておきましょう。

3【労災保険の加入】
重症の熱中症になると、集中治療室で治療することもあります。 総務省によると、2025年(5-9月)には117人の方が熱中症で死亡しています。仕事やリハーサルの前に労災保険に加入して、加入者証を現場で携帯しておきましょう。
全国芸能従事者労災保険センター

予防のSTEP2《作業が始まるまでの準備》

4【熱馴化】
暑さに慣れる「熱馴化」は、熱中症を防ぐ基本です。初日から無理をせず、暑さに体を慣らしやすい段階的な作業スケジュールを各部署で作成しましょう。

5【前日の生活】
熱中症の3大要因である①睡眠不足、②前夜の深酒、③朝食抜きを控えてください

6【温度・湿度の測定】
経験や体感だけでなく、暑さ指数(WBGT値)をもとにした対策を講じるようにして下さい。

  • 暑さ指数(WBGT)測定機は必ず事前に用意して、現場で誰でも確認できるように、置き場所を決めて周知してください。
  • 国は特に、WBGT値28度以上又は気温31度以上の環境下で、連続1時間以上、又は1日4時間を超えた作業がある事業所に対して,罰則付きで熱中症対策を義務付けました。この基準を越えないように、複数の人が定期的に確認をすることも大切です。

7【児童・高齢者への対策】
子どもは体重に占める水分量が多いため、熱中症になりやすく、重症化しやすいです。子どもや高齢者等がいる現場では、WBGT測定機の示す作業負荷よりも、ワンランク広い安全域を設定して、作業の持続時間を短くして下さい。

8【休憩場所の確保】
冷房の効いた休憩場所を確保するようにしてください。

予防のSTEP3《作業中の対応》

9【水分の摂取】
水分を摂り過ぎると汗をかき過ぎたり体がバテたりするというのは誤った考えです。暑い日は本番を前に水分の摂取を我慢しすぎるのは危険です。喉が渇くから飲むのではなく、暑い場所で働くに向けて定期的に飲んでください。電解質が入った飲料や塩飴が最適です。

10【休憩】
作業中に上昇した「深部体温」を下げるために、暑さの程度に応じて作業時間を調整し、休憩時に手足を水に浸すなど,「プレクーリング」を行うなど、定期的に涼しい場所で休憩をとることが重要です。

※休憩スケジュールの例

暑さ指数(WBGT)作業時間の目安休憩時間の目安
31℃以上(危険)30分作業15〜30分休憩(涼しい場所でしっかり体を冷やす)
28~30℃(厳重警戒)50分作業10分休憩(日陰で風通し良く)

予防のSTEP4《作業後の対応》

11【体調確認】
普段から周りの人の顔色(とくに唇の色)や表情に注意しましょう。休憩時には、チークやリップのメイクを落として肌の色を確認したり、カツラや羽二重、着物の衣装(とくに帯や腰ひも)、は、適宜ゆるめましょう。

② 熱中症が発生したら

発生対応STEP1《見つける》

1【尿の色チェック】
各人がトイレのたびに、排尿の量と回数、尿の色を確認して、必要十分量の水分を摂取できているかどうかを判断して下さい。

2【積極的な声がけ】
体調が悪そうな人に、気軽に声がけできる雰囲気作りに心がけて、「いつもと違う」と思ったら、熱中症を疑って事業者や安全衛生管理者など所定の連絡先に速やかに報告してください。報告を受けた人は必要に応じて周囲に周知し、対応を開始してください。

※熱中症の疑いがある場合に「誰に連絡するか(連絡先・連絡手順)」をあらかじめ定め、現場に周知することは、労働安全衛生法に基づき事業者に求められます。

STEP2《判断する》

3 熱中症が疑われる症状の例

  • 【他覚症状】ふらつき、生あくび、失神、大量の発汗、けいれん等
  • 【自覚症状】めまい、筋肉痛・筋肉の硬直(こむら返り)、頭痛、不快感、吐き気、倦怠感、高体温等

STEP3《対処する》

分類主な症状対応
Ⅰ度(軽症)めまい、立ちくらみ、筋肉のこむら返り(熱けいれん)涼しい場所で休み、経口補水液や水分・塩分を補給
Ⅱ度(中等症)頭痛、吐き気、倦怠感、体のだるさ、虚脱感など作業から離脱して、速やかに救急車を呼ぶ
Ⅲ度・Ⅳ度(重症)意識がない、けいれん、運動障害、高体温など命に関わる症状ただちに医療機関に連絡し、緊急対応を依頼

4【重さ別の3段対応】

熱中症の重さは3段階にわかれます。この表を誰もが見えるところに掲示して、現場にいる人全てが「症状」を判断して現場の標準ルールとして徹底するようにして、「対応」できるようにしましょう。

5【現場の進行の一時停止】

熱中症を見つけたら、指揮する立場の人は、全員に周知し、現場の進行を一時ストップして、最優先で対応してください。

  • 速やかにあらかじめ用意した保冷剤やアイスバスを使用したり、衣服をゆるめて皮膚をなるべく露出して、水をかけたり、「うちわ」や「冷風機」等で身体を冷やしてください。
  • 経過観察中、医療機関までの搬送の間は、熱中症になった人を決して1人にしないでください。

【救急相談窓口】
救急隊を要請すべきか、病院に行くべきか、判断に迷う場合は、「救急安心センター事業(#7119)」に電話すると、近くの医療機関(医師や看護師等)が相談に応じてくれます。

※救急搬送が必要となる場合に備え、搬送先(医療機関)および連絡方法をあらかじめ定め、現場に周知しておくことは、労働安全衛生法に基づき事業者に求められています。


厚生労働省「熱中症予防のための情報・資料サイト」
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/nettyuu/nettyuu_taisaku/

セルフチェックリスト
https://artsworkers.jp/wp-content/uploads/2025/08/necchuushou_checklist.pdf

日本芸能従事者協会 熱中症相談窓口:ne-soudan@artsworkers.jp

このガイドラインは、東京都の助成を受け、当該分野の専門家、研究者、法律家、産業医、労働安全衛生コンサルタント、日本芸能従事者協会安全衛生委員等で構成する熱中症防止対策委員会が、厚生労働省の示す対策に基づき作成しました。

どなたでも無料でご利用いただけますが、著作権は日本芸能従事者協会に帰属します。

[2026年2月17日一部改訂]
PDFを見る