労働安全衛生総合研究所 化学物質情報管理研究センター
ばく露評価研究部長 齊藤宏之

(1)WBGT(湿球黒球温度,暑さ指数)とは?

熱中症を適切に防止するためには,どのくらい暑い環境にいるのか,どのくらい熱中症リスクがあるのかを評価することが大切です。そのために用いられているのが「WBGT」という指標で,「暑さ指数」とも呼ばれています。ここでは,WBGT(暑さ指数)を用いて熱中症リスクを評価する方法について示します。

WBGT(湿球黒球温度,暑さ指数)は,湿球温度(湿った温度計による温度),黒球温度(黒い球の中の温度),乾球温度(通常の乾いた温度計による気温)から計算される温度で,熱中症のリスクを増大する環境要因である気温,湿度,日射(ふく射熱),気流(風)を評価することができるとされています。一般的には,市販のWBGT測定器(黒球が付いたもの)を用いて測定することになります。

WBGT測定器はJIS B7922として規格化されており,2023年に精度向上を目的とした改正が行われています。あまり古い測定器は精度的に問題があったり,経年劣化で測定精度が落ちていることもありますので,古い機種をお使いの場合は買い替えをご検討ください。また,今年以降,認証機関によって適切とされた商品にJISマークが付けられることになりました。早ければ2026年度中にもJISマーク付きの測定器が販売されると思われますので,これから購入あるいは買い替えを検討される場合は,JISマーク付きの測定器を選択されることをお勧めします。

WBGTの測定は,作業している場所で測定することが望ましいですが,現実にはなかなか難しいかも知れません。その場合は代表地点での測定結果を用いることになりますが,場所によって暑さの度合いが違うことも考えられますので,一度は各現場で測定し,傾向を掴んでおくことをお勧めします。また,WBGT測定器が準備できないなどの理由で実測が出来ない場合は,環境省の「熱中症予防サイト」に各地のWBGT(暑さ指数)の実況値・予測値が表示されますので,これを活用することも可能です。メール配信サービスも提供されているため,ぜひ活用して頂きたいと思います。但し,ここで提供される値は地域の代表値であって現場の値とは異なる可能性もありますので,あくまでも目安として考えてください。

環境省「熱中症予防サイト」

(2)WBGT測定値の評価

測定されたWBGT値は,基準値表(表1)と照らし合わせて対策が必要かどうかを判断することになります。基準値表は,どのくらいきつい作業・運動をしているか(代謝率がどの程度か)と,暑熱順化しているか(あらかじめ熱に慣れているか)によって10段階の数値が示されています。また,オリジナルの基準値表(JIS Z 8504)では建設現場等を想定した作業例が示されていますが,芸能分野における各作業・動作の例について,推定したものを示します。各分野には歩く速度が示されていますので,ここに載っていない作業・動作についてはそれを参考に当てはめてみてください。

WBGT測定値に,(3)で示す「衣服による補正」を行った数値とこの表の基準値を比較して,基準値よりも高い場合は熱中症リスクが高い可能性がるため,「何らかの対策が必要」ということになります(この値を超えたら作業中止,というわけではありません)。

表1:WBGT基準値表(芸能分野における作業・動作の例は推定)

代謝率区分
(作業のきつさ)
作業・動作の例WBGT基準値(℃)
暑熱順化者
WBGT基準値(℃)
暑熱非順化者
安静安静,楽な座位3332
低代謝率
(軽い作業)
(軽い手作業)
シナリオを書く,タイピング,設計図を描く,デザイン画・絵コンテを描く,衣装を縫う,パソコン作業,運転,カメラ位置に立ち続ける
※目安:2.5km/h以下での平坦な場所での歩き
3029
中程度代謝率
(中程度の作業)
(継続的な腕・足・胴体の作業)
マイクをブームで持ち続ける,フィルムカメラ等を手持ちで長時間撮影,感情の起伏の大きい演技をする,緊張を伴う長時間の演奏
幕の上げ下ろし(手動の場合),すっぽんや奈落・舞台袖など暗所での作業や衣装の早替え
※目安:2.5~5.5km/hでの平坦な場所での歩き
2826
高代謝率
(きつい作業)
(強度の腕・胴体作業、重量物の運搬)
美術装飾の製作(トンカチ,木のカット),荷下ろし,荷揚げ,大道具の運搬,舞台やスタジオ・イベント会場の搬入搬出作業及び設営,スタジオや劇場の天井部分での照明のセッティング,時代劇や甲冑などの衣装の演技,交通事故の演技,数千名を対象にした歌唱やダンス等の演技
※目安:5.5~7km/hでの平坦な場所での歩き
2623
極高代謝率
(とてもきつい作業)
梯子や脚立・イントレに上り下りをする,激しい運動を伴う演技(アクションシーンなど),ぬいぐるみを着てダンスやパフォーマンス,高所からの落下の演技
※目安:7km/h以上での平坦な場所での歩き
2520

(3)衣服による補正

衣服によっては,熱がこもりやすい,汗が蒸発しにくいものがあります。このような衣服を着用している場合は熱中症リスクが高くなるため,基準値表に当てはめる前に補正を行う必要があります。

オリジナルの衣服補正値では,建設作業や工場などでの作業を想定し,有害物質への曝露を防止するための「保護具」が例として示されています(表2)。実際に芸能分野で着用される衣服にこれをそのまま当てはめることは難しいですが,概ね,表中の「芸能分野の衣装」に示したようになると思われます。たとえば,通常の長袖シャツ・長ズボンを着用している場合は補正の必要はありませんが,秋物・冬物の衣類を着用している場合は+2℃程度,着物や時代劇のドレスで+3℃,雨具を上半身のみ着用した場合で+4℃の補正となります。特に,上下とも雨具を着用している場合は+10℃(フードありで+11℃),全身着ぐるみの場合は+12℃と,非常に高い補正値となっており,このような服装のときは想定しているよりも低いWBGT値(低い気温)でも熱中症リスクが生じることに注意が必要です。

表2:WBGTにおける衣服補正値

衣服組み合わせの例芸能分野の衣装衣服補正値(℃)
作業服/つなぎ服/単層のSMS不織布製のつなぎ服半袖シャツ・ズボン
長袖シャツ・ズボン
スタッフ・黒子の衣服
0
単層のポリオレフィン不織布製つなぎ服秋物・冬物2
織物の衣服を二重に着用した場合着物・時代劇のドレス3
つなぎ服の上に長袖ロング丈の不透湿性エプロンを着用した場合雨具(上半身のみ)
着物(浴衣・単衣等)
4
フードなしの単層の不透湿カバーオール雨具上下(フードなし)
着物
10
フードつき単層の不透湿カバーオール雨具上下(フード付き)
着ぐるみ
11
服の上に着たフードなし不透湿のつなぎ服着ぐるみ・着物・時代劇のドレス12
フードかつら・かぶりもの+1

(4)おわりに

WBGT(暑さ指数)の測定や評価は,熱中症対策の必要性を検討するために必要ですが,測定したことで熱中症を防止できるわけではありません。重要なのは,WBGT値が高かったとき,熱中症リスクが高いと評価された時にどのような対策を取るかにかかっています。

熱中症は,きちんと対策を行い,適切な処置を行えば必ず防止できるか,軽症で済ますことができます。その一方で,対策が不十分であったり,適切な処置が行われない場合,現代の医療でも救うことが出来ない,極めて重大な事故に繋がりかねません。地球温暖化の進展にともない,より一層暑さが厳しくなることが予想される中,熱中症による不幸な事故を防止するためには,皆の意識を高めたうえで,出来ることを確実に実施していくことが必要です。

※このページは、内容を変更せず、読みやすさのために構成のみ整理して掲載しています。
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