「ガイドラインと安全配慮義務(契約関係から)」
専修大学法学部教授 芦野 訓和
雇用に限られない契約関係(委任・請負等)における安全配慮義務の観点から、芸能従事者の熱中症対策ガイドラインの意義と、現場で求められる考え方を整理しています。
安全配慮義務は雇用に限られない
働く人びとの働く環境を整備することは、雇用関係にとどまらず、委任契約や請負契約、さらには委託契約においても異なるところはない。さらには、近時は直接の契約関係にない場合であっても、発注者の安全配慮義務が民法上問われることがある。
気候変動と、芸能現場の特殊性
近年、気候変動による異常気象は誰もが感じているところである。最高気温が40度を超えたニュースも珍しくない。さらに、熱中症は真夏の問題だけではない。そのような中、日常生活における熱中症対策の重要性が説かれている。この対策は働く人びとにとっても重要である。
芸能従事者の人びとの働き方は多様であり、ときに非日常的である。高温の室内での撮影や、真夏に冬の風景を撮影することも少なくないだろう。芸能従事者は発注者などの指揮監督命令により役務を提供するだけでなく、創造的役務を提供するための事前の準備が必要であり、日常とは異なる状況・衣装による演技を求められることがあるなど、役務提供の方法も一様ではなく、その実情に合った安全配慮に関するルールが求められるところである。
ガイドライン策定の意義(判断枠組みと多職種連携)
一般社団法人日本芸能従事者協会による「芸能従事者の熱中症対策ガイドライン」が策定されたことは画期的であろう。
裁判において安全配慮義務の存在が認められるのは、当事者間に「特別な社会的接触関係」が認められる場合であるが、どのような場合にその関係が認められるかについては、「人的従属性」および「場所的従属性」が基準となり、具体的な状況に基づいて判断される。義務違反があったか否かについても同様である。
今回のガイドラインが、「熱中症防止対策委員」として、法律関係者だけでなく、求められる熱中症対策の観点から医療関係者・熱中症の専門家、さらには役務提供の実際に通じているあらゆる現場の人々を加えていることは重要であろう。これらの人々による多角的な検討に基づいて策定された本ガイドラインは、創造的役務提供の多様性に対応しうるものであり、また、必要な対策が示されていると評価できる。
現場実装への期待
本ガイドラインは、特別加入団体を有し、日頃から現場の労災に向き合い、実態をよく知った団体である一般社団法人日本芸能従事者協会だからこそ策定することができた、実態にあったガイドラインである。
本ガイドラインに基づいた対策がとられることにより、芸能従事者が熱中症を心配せず、より創造的に役務を提供することができる環境が作られることが期待できよう。
