「どうする?フリーランス新法🔰芸能従事者向け勉強会①、②」を開催しました
令和6年11月1日の「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(通称・フリーランス法)施行に向けて、日本芸能従事者協会ではこれまで、芸能従事者向けの新法勉強会を令和6年の2月、6月の2回にわたって行ってきました。いずれも公正取引委員会及び厚生労働省より担当官が登壇。芸能従事者向けに新法の内容を説明し、会場やオンラインで合計約800名の参加者からの質問にその場で回答しました。フリーランスの中でも、特殊な業界慣例がある芸能界。参加者からは個別具体的な事例についての活発な質問がなされました。2回の勉強会の様子を振り返ります。
2024年2月19日開催【初心者編】
フリーランス新法が今秋に施行されるとあり、会場は演劇や映画をはじめ、音楽、落語、舞踊、モデル、アニメ、美術、文筆等、様々な分野で活躍する芸能従事者とその方々へ発注する方々でほぼ満席となりました。会場での進行と並行して、手話の同時通訳(協力:NPO法人シアター・アクセシビリティ・ネットワーク/TA-net)を繋ぎ、オンラインでも配信を行いました。まず最初に、俳優で日本芸能従事者協会の森崎めぐみ代表理事から開催の挨拶と協賛と周知協力をいただいた11団体にお礼を述べました。
フリーランスが安心して働くために
フリーランス新法は、公正取引委員会と中小企業庁が担当する「取引の適正化」(2つの義務と7つの遵守事項)のパートと厚生労働省が担当する「就業環境の整備」(4つの義務)の2つのパートに分かれており、この日は最初に、公正取引委員会経済取引局取引部取引企画課の武田雅弘さんが「取引の適正化」の中身について解説しました。
武田さんはまず、新法設立の背景に触れ、「個人として働いているフリーランスが交渉力において発注側組織としての企業に対して弱い立場に置かれていることに着目し、フリーランスが安心して働くためにどうすればよいかを考えて作られた法律である」ことを強調しました。
その後、同法の対象について解説。「特定受託事業者」「特定業務委託事業者」「業務委託事業者」といった専門的な用語の定義について詳しく述べた後、法の対象となる取引や発注者にかかる規制(義務や禁止)が発注事業者の別によって異なることなど、法解釈の間違いやすい部分について丁寧に説明しました。
法違反の事業者には勧告や命令も
続いて、厚生労働省雇用環境・均等局総務課雇用環境政策室の尾崎拓洋さんが、4つの義務からなる「就業環境の整備」について解説。「募集情報の的確表示」について、虚偽の表示や誤解を生じさせる表示をしてはならないことや、法違反となる例/ならない例を紹介しました。さらに、「育児介護等と業務の両立に対する配慮義務」について、配慮義務の内容と義務違反となる例について説明。また「ハラスメント対策に係る体制整備義務」の中で必要な措置について、周知・啓発、相談体制の整備、発生した際の迅速かつ適切な対応を挙げ、「中途解除等の事前予告・理由開示義務」では、継続的業務委託の場合、中途解除には30日前までの予告が必要なことなどを説明しました。
フリーランス新法の施行後は、違反・トラブルがあった場合にフリーランス自身が、弁護士による「フリーランス・トラブル110番」や行政機関に対して相談・申出できることも示されました。法違反があった場合は業務委託事業者に対して、指導・助言、場合によっては勧告や命令・公表が行われること、また命令違反には罰金があることも想定されていることが明らかになり、来場者は熱心に耳を傾けていました。
迷った時はフリーランス110番へ
第2部では、日本芸能従事者協会の運営委員でもある映画監督の深田晃司さんと、同じく運営委員で演出家の黒澤世莉さんが登壇し、当事者の立場から質問を行いました。深田さんは義務や禁止といった規制がかかる目安となる事業の実施期間について、1カ月以上を想定しているとされた点について、「CMなど1カ月を超えない短期間の撮影の扱いはどうなるのか?」と質問。それに対し、公正取引委員会の武田さんは「期間を超えない取引は、禁止事項の対象になってこないことはありうる。ただ、契約を更新すると1カ月を超えるという場合は対象になることもあるので、これが対象になるのか迷った際はフリーランス110番などに相談していただければよいのかと思います」と答えました。
また、深田さんが同法の通称についても質問したところ、公取委の武田さんは、「法律施行後は『フリーランス法』が略称として使われるのではないか」という見解を示しました。また、黒澤さんは、演劇の現場から若い人が自分たちで小規模の公演を行う場合、どうすれば無理なくフリーランス法に則って運営できるのか」という質問を投げかけました。これに対して武田さんは「この法律で必要なのは、発注書面に取引条件を明示する義務であり、弁護士に作成してもらわなければならないような難しい契約書を取り交わす義務ではありません。一方で、言った、言わないというトラブルを避けるためにも、誰かが誰かに出演を委託する際は、日常的にやりとりしているメールやメッセージツールなどを含む方法で取引条件の明示項目を書いておく必要があります」と話していました。
2024年6月17日【深堀り編】
2回目となる深掘り編では、フリーランス新法施行日が令和6年11月1日に決まったのと同時に、細かいルールや法解釈のガイドラインが5月末までにまとまったため、その内容を反映した勉強会となりました。最初に、前回同様、森崎めぐみ代表理事から開催の挨拶と、協賛と周知協力をいただいた団体が7団体増えて18団体になったことを報告し、改めてお礼を述べました。
法律の対象はBtoBの委託取引
公正取引委員会からは武田雅弘さん(公正取引委員会 経済取引局取引部取引企画課フリーランス取引適正化室 室長)が登壇。新法では、フリーランスを事業者と捉え、発注企業との間に発生したBtoBの委託取引を法律の対象にすること、対消費者となるBtoCの取引や不特定多数に対する売買については対象にならないことが前提として示されました。
また前回説明のあった取引適正化の2つの義務と7つの遵守事項に関し、「書面等による取引条件の明示」については、発注者が個人事業主である場合も含めすべての発注側に係る義務として示されました。芸能やイラスト・アニメーションの業界では、これまでにフリーランスがフリーランスに発注することも多いという指摘があり、多くのケースで取引条件を教えてもらっていないという実態があったことから、明示義務を課すことによってトラブルを避けるためという考え方の背景を説明しました。さらに、前回ははっきりと明示されていなかった、「一定期間以上」の業務委託契約について、今回は期間が示されたほか、明示すべき9つの事項とその方法が契約書という形でなくてもよく、書面でも電磁的方法でも構わないことなど(ただし、未定事項については決められない理由、予定期日を示す)が紹介されました。
番組打ち切りでもテープ返品はNG
「期日における報酬支払い義務」では、物品などを受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内で報酬を支払わなければならないことを強調。また特定受託業者との1カ月以上の業務委託に関し、「特定業務委託事業者の遵守事項」として①受領拒否、②報酬の減額、③返品、④買いたたき、⑤購入・利用強制があり、芸能界で言えば、放送番組の撮影を依頼されていたが人気が出ず番組が打ち切られたという場合に、納入された映像作品のテープを引き取らせるというのが、返品に当たると説明。さらに利益を不当に害さないために、①不当な経済上の利益の提供要請と②不当な給付内容の変更及び不当なやり直し、をしてはならないとしました。特にデザインの作成などに関して、やり直しはよく発生するが、無料でやらせたり、あらかじめ発注段階で決めた以上のことをやり直させたりすることを禁止していることを例に取り上げました。
必要な配慮の申し出は無視できない
一方、厚生労働省からは庄司萌乃さん(雇用環境・均等局総務課雇用環境政策室 政策第一係 係長)が登壇し、「就業環境の整備」について話しました。
まず、4つの義務のうち、2つは全ての業務委託をしている事業者に、2つは6カ月以上の業務委託をしている事業者に向けたものであることを説明しました。「募集情報の的確表示義務」は多数のフリーランスに広く提供される募集情報に適用され、実際の報酬額より高い額を表示することや、すでに終了した情報を表示し続けることなどが義務違反にあたるとしました。
「育児介護等と業務の両立に対する配慮義務」では、6カ月以上の業務委託をしている事業者に、フリーランスが育児・介護・妊娠・出産と業務を両立できるよう配慮するものですが、あくまでフリーランスからの申し出に応じて必要な配慮を行うことを強調しました。配慮の例としては、例えば、「子供が病気になったので納期を変更できないか」といったことも想定されるといい、配慮ができない場合もその理由について説明する必要があり、申し出を無視してしまうと義務違反になると述べました。
途中解除の予告は記録に残る方法で
「ハラスメント対策に係る体制整備義務」には、ハラスメントの窓口を決める必要があり、外部委託しても、担当者を決める形にしても構わないとし、契約書に記載するなどのなんらかの方法でフリーランスに対し周知をしなければならないとしました。実際には、発注者側企業が労働者に対して構築した体制を、フリーランスにも使えるようにすることが想定されていると話しました。
「中途解除等の事前予告・理由開示義務」は6カ月以上の業務委託に適用されるもので、中途解除や更新しない場合は、災害などやむを得ない事由がある場合や30日以下の短期の場合等を除いて、30日前までに書面、ファクシミリ、電子メールなど記録に残る方法で予告することや、フリーランスにその理由の開示を求められた際に開示しなければならないとすることが紹介されました。
その後、会場やオンラインでの視聴者からの個別の質問に、武田さんと庄司さんがその場で回答をしました。「俳優がオーディションを通じて仕事が決まる際の、取引条件の明示のタイミングはいつか?」というような、業界特有の質問も多く聞かれました。直接省庁の担当者から普段疑問に思っていたことを聞き出せる機会を、多くの方が積極的に利用していました。
協賛:一般社団法人日本映画制作適正化機構/協同組合日本シナリオ作家協会/一般社団法人日本アニメーター・演出協会(JAniCA)/一般社団法人日本モデルエージェンシー協会/action4cinema 日本版CNC設立を求める会/ 特定非営利活動法人えがおのまちづくりステッキ/ふくやま大道芸実行委員会/全国芸能従事者労災保険センター/NPO法人シアター・アクセシビリティ・ネットワーク(TA-net)/アーティスツ・ユニオン/日本民間放送労働組合連合会(民放労連)/一般社団法人日本劇作家協会/映演労連フリーユニオン/一般社団法人日本撮影車輌協会/公益財団法人落語芸術協会(協賛順)
周知協力:特定非営利活動法人舞台芸術制作者オープンネットワークON-PAM/art for all/ユニオン出版ネットワーク(出版ネッツ)/Hokkaido Artists Union Studies(賛同順)